職場で、後輩がみんなから頼りにされ、イキイキと実績を出している姿を見て、ふと「あれ、私ってこの部署にもう必要ないのかな…」と心がざわつくことはありませんか?
そのモヤモヤや違和感の正体は、自分の立ち位置や価値を周囲と比べて確かめようとする「社会的比較」と呼ばれる心理学の仕組みによるものかもしれません。
この記事では、なぜ相手が羨ましい気持ちになり、焦りを感じるのかという理由を、思考の整理を通して紐解いていき、その気持ちを乗り越えるために参考にした絵本を紹介します。読み終える頃には、あなたの心が少し軽くなり、今の自分だからできる役割に気づくきっかけになるかもしれません。
「私じゃなくてもいいかも」という言葉にできない焦り
みんなから愛される後輩の活躍を、なぜか素直に喜べない
30代に入り、ふと「自己肯定感が下がっているな」と感じる瞬間がありました。
ある日、職場で20代半ばの後輩と一緒に働くことになったときのことです。その子は仕事にとても熱心で、周囲と上手にコミュニケーションを取りながら、みんなから愛される存在でした。それだけでなく、行動力があり、数字としての実績もすぐに出せるような子だったのです。
本来なら先輩として喜ばしいことのはずなのに、しゃかりきに頑張るその姿を見て、私はなぜか素直に喜べない自分に気がつきました。
「もっとサポートしてあげて」…悪気のない聞き流せない一言に心がざわつく時
後輩に負けずに私ももっと頑張らなくちゃ!そう思いながら努力していたある日。
私に対してこんな言葉が向けられました。
「〇〇さんがもっと(後輩を)サポートしてあげてよ」
聞くところによると後輩は困っているとのことでした。その姿は周囲から見ると孤軍奮闘しているように見え、同じチームの私に矛先が向いたのです。
後輩を想った悪気のない言葉だと頭ではわかっていても、この聞き流せない一言に私の心がざわつくのを感じました。「私も一生懸命に仕事をしているのに、なぜ怒られなければいけないの?」という行き場のない感情が、胸の奥に引っかかってしまったのです。
私はもう必要ない?焦りと喪失感の正体
その出来事をきっかけに、人間関係のバランスが少しずつ変わって見えました。
周りにとって私よりもその子の方が大事で、実績を出すその後輩の方が「会社にとって価値がある」のだと突きつけられたような気がしたのです。「私はもう、ここでは必要ないと思われているのかもしれない」。そんな焦りと喪失感が、得体の知れないモヤモヤの正体でした。
心が追いつかない理由と、羨ましい気持ちの奥にある正体
「自分が中心」だった価値観の違いと、無意識に比べてしまう心の罠
なぜこんなにも心が揺れるのか。理由をたどると、20代の頃の自分の姿に思い当たりました。
20代の私は、自分が実績を残し、成果を出すことに必死でした。仕事も、人生も、友達も、恋愛も、「自分が中心」に回っている感覚があったのです。
しかし、30代になり「プレイヤーとして走る自分」から「後輩を支える自分」へと求められる役割が変わりました。過去の「自分が主役」という価値観の違いに心が追いつかず、無意識のうちに輝いている後輩と今の自分を比べてしまっていたのです。
自分を責めなくていい。感情の裏にある「社会的比較」という仕組み
なぜこんなにも比べて落ち込んでしまうのか。あとになって、自分の価値や立ち位置を周りの人と比べることで確かめようとする「社会的比較」という心理学の仕組みがあるのだと知って、私は少しホッとしたのを覚えています。
特に、自分より輝いて見える相手と比べてしまうことを「上方比較」と呼ぶそうです。私が後輩を見て焦りを感じていたのは、決して私が冷たい人間だからでも、嫉妬深いからでもなく、「自分の価値を確かめたい」という人間の自然な心の働きだったのだと分かり、すごく腑に落ちました。
相手を否定したくなる感情は、あなた自身の「本当の願い」が隠れている証拠
後輩や周囲にモヤモヤしてしまう感情の裏には、「本当は自分も役に立ちたい」「必要とされたい」という前向きな願いが隠れています。
この感情を無理に消そうとするのではなく、「あぁ、私は今、自分の役割の変化に戸惑っているんだな」と一呼吸置くだけでも、少しだけ心が落ち着いていくのを感じられるはずです。
深海の冒険を描く絵本が教えてくれた、自分の「新しい姿」
そんな葛藤の中で、私にひとつの大きな気づきをくれたのが、この絵本でした。
『にじいろのさかな うみのそこのぼうけん』
(マーカス・フィスター作/谷川俊太郎訳)
主役を支える存在が無ければ、物語は進まない
この絵本では、主人公の「にじうお」が大切にしていた「キラキラうろこ」を深い海の底へ落としてしまいます。仲間の制止も聞かず、たった一匹で未知の暗い深海へ飛び込んだにじうお。
不安に震える彼を助けたのは、不思議な深海の生き物「じゅうもんじだこ」でした。物語の中で、タコは困難に立ち向かう主人公に「あきらめないで」と静かに語りかけます。深海の生物たちに何度も何度も声をかけ、にじうおを何度も何度も励まします。
彼の温かい励ましと案内によって、にじうおは困難な冒険を乗り越えていきます。
最初この絵本を読んだときは、にじうおの勇気と意思に感動しました。ですが、後輩との関係に悩んでいた私が再度読み返したとき、ふと「いまの私は主人公ではなく、深海で彼を導いた『じゅうもんじだこ』のような存在なのかもしれない」と思ったのです。
自分の意志を貫こうとしゃかりきに頑張る人をサポートし、常にその道を明るく照らしていく「支える側」の存在も、絶対に欠かせない大切な役割なのだと気づかされました。キラキラ輝く人の隣で伴走することも、ひとつの立派な生き方なのだと思えたのです。
無理に変わらなくて大丈夫。これまでの経験が、周りを温かくしていく
自分が中心となって全力で走ってきた20代の経験があるからこそ、今、必死に走っている後輩の苦労や壁を、誰よりも理解してあげられるはずです。
無理に自分を偽って、いきなり完璧な「サポート役」に徹する必要はありません。あなたがこれまで積み上げてきた実績や想いは、決して消えることはないからです。いま抱えているその違和感は、あなたが新しい役割へと静かに成長し、周りを温かく照らす存在へと変化している確かな証拠なのです。

