新しく来た人の意見に共感するのに、なぜか前に出られない…そんなモヤモヤ
ある日、新しく入社した後輩がこんな提案をしました。
「この手数料を、少し見直してみませんか?」
今の状況を考えると、売上にもつながる可能性がある内容でした。
話を聞いたとき、私は「それはいいかもしれない」と感じました。
ただ、会議の場ではすぐにこんな言葉が出てきます。
「今までもずっとこのやり方だったから」
「この仕組みには歴史があるから」
その空気の中で、「いいと思います」と言うのは、思ったよりエネルギーが必要です。
実際、後輩の前では
「こういう説明なら通るかもしれないね」
「この数字も入れてみたらどうかな」
そんなふうに一緒に方法を考えていました。
けれど、いざ上司の前になると、そのまま同じことを言うことができません。
むしろ「確かに今までのやり方もありますよね」と、どこか流されてしまう。
応援しているはずなのに、うまく言葉にできない。
その瞬間、心の中に小さなざわつきが残りました。
実はその手数料に関して、私自身も前から少し違和感を感じていました。
今の環境は、この仕組みが作られた頃とは大きく違っています。
何か変えていかなければ、少しずつ厳しくなっていくかもしれない。
それでも、これまで自分から動くことはありませんでした。
「自分の仕事の範囲ではない」
「そこまでエネルギーを使えない」
そんな理由をつけて、考えないようにしていた部分もあったのだと思います。
だからこそ、後輩が「ぜひやりたいです」と動き始めたとき、少し複雑な気持ちになりました。
応援したい気持ちと、職場の空気のあいだで揺れる感覚です。
職場では、正しいと思うことでも、すぐに口に出せるとは限りません。
立場や空気、人間関係。いろいろな要素が重なって、言葉が変わってしまうこともあります。
そのときに感じた違和感やモヤモヤは、
「自分は本当はどう思っているのか」を静かに教えてくれるものなのかもしれません。
「ずっとこうしてきたから」という言葉に感じる違和感の正体
職場でも私生活でも、「今までずっとこうしてきたから」という言葉をよく耳にします。
そのやり方には長い歴史があり、実際にそれでうまくいってきた時間もあります。だからこそ、簡単に変えることに抵抗があるのは自然なことです。
それでも、どこかで違和感を覚えることがあります。
それは「守ること」と「変えないこと」が同じ意味になってしまっているように感じるからかもしれません。
本来、文化や仕組みは時代に合わせて少しずつ形を変えていくものです。しかし「変えない理由」として使われたとき、その言葉は新しい提案を止める壁になってしまうことがあります。
多くの人が「このままでは厳しいかもしれない」と感じていても、最初に動く人はなかなか現れません。変化を起こす人は目立ち、批判も受けやすいからです。
その結果、「誰かがやってくれたらいい」という空気が生まれ、新しい提案そのものが出にくくなっていきます。表面上は穏やかでも、気づかないうちに思考が止まってしまうこともあるのです。
一人の行動が空気を変えることもあると気づいた瞬間
今回の出来事を通して、少なくとも私は、この提案を気にかけ続けていた一人になれたのだと思います。
後輩はその後も、何度もヒアリングをして、何度も提案を出して、少しずつプランを形にしていきました。
簡単に諦めることなく、少しずつ周りを巻き込みながら進めていきました。
そして最終的に、その意見が反映されたプランが出来上がりました。
振り返ると、私は特別なことをしたわけではありません。
実際に動いたのは後輩です。
だからこそ、最初は「自分は何もしていない」と思いました。
けれど、ふと考えることがあります。
もし、その後輩が本当に一人だったらどうなっていたのだろう。
もし、周りの99%が完全に反対だったらどうなっていたのだろう。
もしかしたら、そのプランは途中で消えていたかもしれません。
人は、完全に一人の状態ではなかなか動き続けられないものです。
たとえ大きな力ではなくても、「それいいと思うよ」と言ってくれる人が一人いるだけで、もう少し頑張れることがあります。
相談できる人。
話を聞いてくれる人。
少しでも理解してくれる人。
そういう存在があることで、人は孤立せずに行動を続けることができるのではないでしょうか。
だから、もし自分が大きく動けなかったとしても、
その時間や関わりがまったく意味のないものだったとは限りません。
おすすめの絵本
絵本『きりのなかで』(あらしのよるにシリーズ)
今回の出来事を振り返っているとき、ふと思い出した絵本があります。
きむらゆういちさんの「あらしのよるに」シリーズの一冊、『きりのなかで』です。
この物語には、ヤギのメイとオオカミのガブという、本来なら敵同士の二匹が登場します。
ある日、ガブは「きれいな月を見せたい」と言って、メイを丘へ誘います。
しかし、その丘には別のオオカミが潜んでいました。鋭い牙がメイに襲いかかろうとした瞬間、ガブは仲間の手からメイを助け出します。
オオカミがヤギを守る。
それは、この世界ではほとんど理解されない関係です。
もしかするとメイには、
自分が食べられてしまう可能性さえ受け入れる覚悟があったのかもしれません。
それでもガブは、どうすればメイが他のオオカミに見つからないか、一生懸命考え続けます。
時には別のオオカミから「ヤギを見つけたら教えろ」と言い寄られ、困る場面もあります。
その姿はどこか少し間抜けにも見えます。
それでも、99%の世界からヤギを守ろうとする姿には、思わず胸を打たれます。
その少し間抜けな姿には、どこか自分を重ねてしまう部分もありました。
そして、信念を持って行動するガブの姿は、これからの自分のあり方を少しだけ考えさせてくれます。
最後に、ガブが信じた世界がどのように描かれていくのか。
その続きを思わず知りたくなってしまう、そんな一冊です。


